2014年09月26日

9月に読んだ小説の感想

今月から、その月に読んだ小説の感想を軽く書いていこうと思います。


ジャンルはごちゃまぜ。

『かぶき大名』  海音寺潮五郎


戦国~江戸初期を題材にした短編集。
タイトル通り傾奇者と言えるような武士、武将を主人公にした短編が収録されている感じです。
この本に登場する武士たちは頑固だったり偏屈だったりする男ばかりで、とにかく自分を曲げない。
周囲に迷惑をかけたりもしますが、しかしそんな彼らの人生は実に魅力的でもあります。
意地を立て通す姿に男らしさを感じられるというか。

最初に収録されている表題作の『かぶき大名』は水野勝成が主人公でして、いきなり破天荒な人生を楽しめます。
気に入らないことがあるとすぐカッとなるため、暴力沙汰になって取り返しの付かない事態を引き起こし出奔、
といったことを繰り返す青年期の勝成が、老人になると逆に若者を諭す側になるのが、
あるあるって感じで面白いですね。

それ以降の作品も、一癖も二癖もある男ばかりが登場しますので読み手を飽きさせません。
短編なんですが、どれもこれも人生をしっかり描写し切っているので読み応えが濃厚です。
文体も読みやすいのでサクサク読めて面白かった。




『ならぬ堪忍』  山本周五郎
ならぬ堪忍 (新潮文庫)
山本 周五郎
新潮社
1996-03-28


主に江戸時代を舞台にした短編集です。
山本周五郎はもう文体が非常にクールで格好良く、読んでいて酔ってしまいますが、
内容の方も、どれもこれも実に面白い。
人情や誇りを感じさせてくれる内容のものが多く、後味が良い作品が多いです。
主人公が理不尽なことに巻き込まれても、最後には胸のすく展開が用意されていたりして、
気持ちのいい気分で読める。
お家に伝わる掛け軸の扱いだとか、主君の出世のための年貢割増だとか、
エピソードによって色々な問題が持ち上がりますが、
奉公のために個人の命を捨てることもいとわない武士も多く登場するものの、
結果的には個人や弱者の尊厳が守られるような流れの話が多い。人間賛歌的な気持ちのよさがあります。
このような収録作のすべてが戦前~戦時中に書かれているものであるあたり、
作者の社会へのメッセージをなんとなく感じてしまいます。

問題点があるとすれば、清廉な主人公が多すぎて、後半のエピソードになるにつれてワンパターンに感じてくることや、
最後に収録されている『鴉片のパイプ』が作風的に浮いていて、この本に収録されるにふさわしく感じないこと、
などがあります。『鴉片のパイプ』自体は面白い作品なので編者が悪いのだと思いますが。
ともあれ、全体的には名短篇集だと思います。




『早雲立志伝』  海道龍一朗
早雲立志伝
海道 龍一朗
角川書店(角川グループパブリッシング)
2011-02-01

早雲立志伝 (角川文庫)
海道 龍一朗
角川書店
2013-07-25


北条早雲こと伊勢盛時を主人公に、その若き日から、相模小田原城を手中に収めるまでを描いた作品。
北条早雲と言えば、かつては身一つから大名になったと言われ、下克上の代名詞のひとりとして有名でしたが、
近年の研究で人物像が激変している戦国武将でもあります。
実は名門の出だったり、幕府の意向をかなり受けて出向してきていたとか、色々と。
この作品は、かなり最新に近い解釈の北条早雲が描かれている感じで、過去の早雲モノと比較すると
イメージが違って面白いです。
中央政府(細川政元)の後援を受け、緊密に連携を取って事を進める伊勢盛時の姿は、まさにデキる政治家って感じで、
権謀術数は駆使するものの、下克上大名としてのそれとはイメージが全然違う。
中央への根回しや周到な準備が実って、うまく対立勢力を追い落とすなどの展開は胸が熱いですね。
苦労を重ねながらも着実に大名として独立し、勢力を拡大していく様は見ていて素直に応援したくなります。
展開も説得力があり、細川政元や今川家に信頼されている理由も、すごく納得のいく感じだった。

ただ、小説として見るといまひとつ上手くないなと感じてしまう部分も目立ちます。特に構成が微妙。
この部分は面白いからもっと長く見たいのに、簡単な説明でさっと流されてしまっていてもったいない、
とか感じてしまうことが実に多かった。
なので肝心なところで盛り上がりに欠けるきらいがありますが、
それでも合戦シーンの熱さはかなりのものなので、読み応えは充分あります。
新しい早雲像を楽しんでみたい方にはオススメです。




『冴えない彼女の育てかた』  丸戸史明


同人でギャルゲーを作ろうと目論む、痛い少年を主人公にした作品。
登場するヒロインがとにかく個性的で、あんまり他の作品の誰かに似ているとか感じないのは良いですね。
人物造形が上手いと思います。
とくにメインヒロインの恵はいいですね。なぜか主人公の痛い話や行動に根気よく付き合ってくれるんですが、
主人公が期待するような可愛さや魅力が全然ないというのが面白いです。
簡単に巻き込まれてくれるチョロさがあるわりに肝心なところでノリが非常に悪いんですね。
ただ、主人公がどう思ってるかはともかく、読み手として見ると、その乗り気じゃなさそうなのに付き合ってくれるところが
見ててすごく可愛いと感じられます。地味なヒロインが好きなら、この子には萌えられるはずです。

ただし物語としては淡々としているし、それほど心動かされる展開があるでもない。まだまだ序章って感じがします。
面白くなりそうな感じはするけど、1巻の時点では盛り上がりが無いなと思いました。




『デート・ア・ライブ 十香デッドエンド』   橘公司


危険な存在である精霊の少女を、デートしてデレさせてしまおうという、
まあ大雑把に言えばそういう内容のラブコメ+バトル物のライトノベルです。
アニメやゲームはすでに手を出していたんですが、せっかくなので原作も読んでみました。
文体にあまりクセがなくて読みやすいのはいいですね。

この1巻はタイトル通り十香という少女がヒロイン。
今まで人間が問答無用で自分を攻撃してくるばかりだったために絶望している十香を、主人公がデレさせていくことになります。
明るく好奇心旺盛な十香は実に可愛い。人間社会に疎いために変な行動を取る姿は、戦闘時とのギャップ萌えが楽しめますね。
主人公は巻き込まれ型ではあるものの、やるときはやる男なので見ていてストレスが溜まらない。
終盤、真摯に十香の心を解きほぐしていく姿はなかなかのカッコよさです。
一応学園が舞台ではありますが、空中戦艦とか出てくるし学園ものの範疇には収まらない展開が多い。

1巻の時点では妹にあまり可愛げがないので、そこが少々ストレス要因になりますが、
十香が可愛いし、展開も胸が熱くなるものがあるので、
こういうジャンルの小説ならではの魅力がほどよく味わえますね。なかなかの作品です。




『獣王子の花嫁 精霊の谷に嫁ぐ姫』  みなづき志生


母親が没落したために立場の低い主人公のお姫様が、犬の頭を持つ種族「ユフト」のもとへ嫁がされることになる、という話。
ただし異種族との恋愛劇みたいなものを期待すると少々裏切られる展開でしたけど。

主人公のサミュアと、ヒーローであるティークの二人は、ともに性格が真摯で好感が持てますし、
特にティークの感情表現の不器用さは可愛げがあって魅力的ですね。
それでいてサミュアを守るときは非常にカッコイイし。
サミュアはちょっとうじうじしたところもあるけど、思いやりがあるし、この子もなかなかいい。
キャラクターは基本を押さえた感じで魅力があります。
心理描写が非常に丁寧で、キャラの考えていることがよく伝わってくるのが効いてるんでしょうね。

ただ、心理描写やキャラの過去などの掘り下げが非常に丁寧なのはいいんですが、そのせいか展開がやたらと遅く、
とにかく話が全然動かないのがネック。
まがりなりにも嫁入りの話で、冒頭で出発しているのに、まさか1巻かけて相手国に入りすらしないとは思いませんでした。
話自体もはっきり言ってよくありがちな部類で新鮮味もないし、ちょっと都合の良すぎる部分もある。
とはいえ、キャラの魅力でストーリーの微妙さと展開の遅さはある程度カバーされてはいるので、
ぜんぜん面白くないということはないです。まあまあかな。
せめて終盤でユフトの国に入ってみせてくれれば、もうちょっと話が動きが感じられたと思うんだけど。





まあこんな感じで。
挫折しなければ、しばらく続けてみようと思います。
読んだものは感想書いておかないと、忘れてしまうこともありますからね。




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